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大分地方裁判所中津支部 昭和63年(ワ)143号 判決

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  大分地方裁判所中津支部昭和六一年(ケ)第一二五号不動産競売事件について、昭和六三年九月二八日同裁判所が作成した配当表を変更し、原告に金一七八八万五三一八円を、被告にその余を配当する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  訴外株式会社豊和相互銀行は、大分地方裁判所中津支部に訴外有限会社三興、同三浦商事有限会社所有の不動産につき競売の申立を行い、同裁判所は昭和六一年(ケ)第一二五号不動産競売事件として競売手続を進行して昭和六三年八月五日に訴外中津宇佐菱光コンクリート株式会社が同不動産を落札した。

2  原告は、右競売物件のうち別紙物件目録一記載の建物(以下、「本件建物」という。)について、大分地方法務局中津支局昭和六〇年三月二三日受付第二九三九号でもって極度額を金六〇〇〇万円、債権の範囲を売買取引、手形債権、小切手債権とする順位一番の根抵当権設定登記をなしているため、同裁判所に合計金一七八八万五三一八円の債権届出をなした。

3  同裁判所は、右の競売事件につき、昭和六三年九月二八日付で原告の配当金額を八三〇万七一五四円、被告の配当金額を二五八二万八六三五円とする配当表を作成したが、被告に対する右配当額は、工場抵当法(以下、単に「法」という。)三条に基づく抵当権者としてのもので、別紙物件目録二記載の物件(以下、「本件物件」という。)の競落代金も含まれている。

4  しかしながら、以下に述べるとおり、本件物件には本件建物に設定された前記根抵当権の効力が及んでいるから、その売却代金については原告が優先配当を受ける権利がある。

(一) 本件物件は本件建物と一体をなした生コンクリートを製造するバッチャープラントであり、各機械、設備が本件建物の一構成体としてできており、本件物件は本件建物の構成部分であるから、法二条一項に規定する「附加シテ之ト一体ヲ成シタル物」(以下、「附加物」という。)として前記根抵当権の効力が及んでいる。

すなわち、右バッチャープラントは、日工株式会社がユニット方式により製造したものを現場で組み立てたものであるが、このユニット方式は外壁と中の諸機械を一体として組み立てることに特色を有しており、本件物件はそれぞれのユニットの構成物となっている。そして、各ユニットを組み合わせることによって工場が完成し、各ユニットは相互にこの工場の基礎ないしは柱等の役目を果し、工場に附加されてその一部となっており、外壁や天井をそのまま残して本件物件のみを取り外すことなどはできず、これを取り外すことは工場自体を取り壊すことに外ならないのである。

(二) 仮にそうでないとしても、本件物件は本件建物に備え附けられた機械器具であるから、法二条一、二項に規定する「備附ケタル機械、器具其ノ他工場ノ用ニ供スル物」(以下、「備附物」という。)として原告の前記根抵当権の効力が及んでいる。

5  このため原告は、昭和六三年九月二八日、同裁判所で行われた配当期日において右配当表のうち被告に対する部分につき異議の申立をした。

6  以上の理由から、右配当表のうち、本件物件の競落代金について原告が被告に対して優先配当を受ければ、原告の配当額は届出債権額以上となることは明白であるから、請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3の各事実は認める。

2  同4の事実のうち、冒頭部分は争う。

(一)については、本件物件が本件建物の附加物であるとの点は否認する。

本件物件は、いずれも本件建物に備え附けられた機械器具にすぎない。本件物件は、各計量器として、ミキサーとして、集塵機として、あるいはベルトコンベアーとして、いずれも物理的にも単体として独立性を有し、かつ商取引上も単品として取引されうるものであって、備附物に該当することは明らかである。

この点は、本件のごとくユニット方式により組み立てられた場合であっても何ら異ならない。けだし、本来バッチャープラントと称するものは、生コンの材料投入から製品完成までの各製造過程の用に供される各機械器具が機能上連続作業が可能なように設置された状態を指し、これが安定上あるいは防音防塵上、点検作業上、ひとつの建物に備え附けられており、そのため当該建物自体は小規模で簡易なもので足り、通常各生コン製造過程ごとに機能上各階層を有するタワー状となっている。ユニット方式が通常のバッチャープラントと異なるのは、ただ一点、その施工方式のみである。すなわち、通常の場合は、まず架台の上に鉄骨を柱及び床の支えとして組み、天井及び床板を張り、これに各機械器具を搬入、備え附け、最後に外壁(遮音・断熱パネルのこと)を設置するが、ユニット方式の場合は、各機械器具ごとにコンテナに収納し、これを現地で積み重ねる方式であり、このコンテナの上下が各階の天井と床に、その側面が外壁となって、結局一棟の建物が完成するというにすぎず、完成後におけるバッチャープラントとして判断する限り、機械器具がその建物に備え附けられた状態(備え附けられた状態は、天井の簗の鉄骨にボルトで吊り下げられたり、床に置かれただけであったり、ボルトで止められたり、上の階の機械に吊り下げられたりなどしているにすぎない。)には何らの相違もないのである。

原告は、「本件物件がユニットの構成物となっている」とか、「各ユニットは相互にこの工場の基礎ないし柱等の役目を果している」旨主張するが、それは、建物及び機械器具について、その組立の施工過程における相違と、その完成後における客観的な状態とを混同した主張であって、法に規定する附加物か否か、あるいは備附物か否かを判断するに当たっては、完成後における客観的な状態がその判断基準となるべきは明白である。

また、原告は、「外壁や天井をそのまま残して本件物件のみを取り外すことなどはできず、これを取り外すことは工場自体を取り壊すことに外ならない」旨主張するが、全く事実に反する。前記のとおり、本件物件は天井、床、他の機械器具にボルトで固定されているにすぎず、その取り外しは可能かつ容易である。その搬出においても、前記のとおり、本件建物の外壁は単なる遮音、断熱用の外装パネルにすぎないから、必要箇所を一部取り外し、また必要に応じ一部取り壊して搬出することは可能かつ容易であって、これらによって、本件建物が崩壊することなどありえない。現に、本件ユニット工法による操作室ユニット内の操作盤にあっては、これを本件建物から一〇メートル離れた別個の建物たる事務室内へ移設できており、この一事をもっても原告主張の虚構は明白である。

3  同5の事実は認める。

三  抗弁(請求原因4(二)に対して)

法三条一項は、「工場ノ所有者カ工場ニ属する土地又ハ建物ニ付抵当権設定ノ登記ヲ申請スル場合ニ於テハ其ノ土地又ハ建物ニ備附ケタル機械、器具其ノ他工場ノ用ニ供スル物ニシテ前条ノ規定ニ依リ抵当権ノ目的タルモノノ目録ヲ提出スヘシ」と規定しているところ、原告は右目録(以下、「三条目録」という。)を提出していないから、本件物件に対する抵当権の効力を被告に対抗できない。すなわち、法は備附物の目録を建物の抵当権設定登記申請時に提出させる制度をとり、その目録の記載を登記とみなす(同二項による三五条の準用)ことによって、目録提出の先後により備附物にかかる抵当権の優劣を決する制度になっているのであるから、原告が本件物件の売却代金から優先弁済を受け得ないのは当然である。

四  抗弁に対する認否

原告が三条目録を提出していないことは認めるが、その余は争う。

法三条は、抵当権の効力が備附物に及ぶことを第三者に対抗するための対抗要件として三条目録の提出を定めたものではあるが、右第三者には法二条に基づき工場に属する建物に抵当権を設定(以下、右抵当権を「工場抵当権」という。)した抵当権者は含まれないと解すべきであるから、原告は前記根抵当権の効力を後順位抵当権者である被告に対抗することができるというべきである。すなわち、法二条が工場抵当権を設定すれば附加物の外備附物にまで抵当権の効力は及ぶと規定しながら更に三条を設けたのは、備附物は建物と一体を成していないために独立した物件として第三者との間で取引の対象とすることができることから、これら第三者との関係を調整する必要があるからに外ならない(法三条が附加物を含めていないのは、附加物は工場と一体となっているため第三者がこれのみを独立した物件として取引の対象とするおそれはなく、また、仮に取引の対象とされたとしてもこの取引を保護する必要はないからである。)。従って、法三条の対抗要件の対象となる第三者には、工場抵当権を設定した抵当権者が含まれないことは明白であり、工場抵当権の効力は三条目録を提出しているか否かに関係なく備附物に及び、その抵当権の優劣は一般原則に従って登記の先後によって決定されるべきであって、そう理解されなければ法二条の規定は全く意味がなくなってしまうのである。

第三  証拠(省略)

理由

一  請求原因1ないし3の各事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、本件物件が工場の構成部分か備附物かについてまず判断する。

甲第一号証の一ないし三、第三号証(以上は、証人武内俊雄の証言によって真正に成立したものと認められる。)、乙第七、第九及び第一〇号証(以上は、成立に争いがない。)、証人武内俊雄及び同松尾馨の各証言並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実を認めることができ、この認定に反する証人橋本正美の証言部分は具体性に乏しく、俄かに採用することができない。他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

(1)  本件物件は本件建物と共に、生コンクリートを製造するバッチャープラントを組成しており、生コンの材料投入から製品完成までの各製造過程の用に供される各機械器具が機能上連続作業が可能なように設置されており、各生コン製造過程ごとに機能上各階層を有するタワー状となっている。

(2)  右バッチャープラントは、日工株式会社がユニット方式により工場で製造した各ユニットを現地で組み立てたものであるが、右ユニット方式と通常の方式との違いは、後者が鉄骨フレームと内部機器を別々に現地に持ち込んで組み立てるのに対し、前者は機械装置及びそれらを支える骨組み、外装パネルを一体として組み立てた各ユニットを現地に持ち込んで組み立てることに特色を有している。すなわち、通常の方式の場合は、まず架台の上に鉄骨を柱及び床の支えとして組み、天井及び床板を張り、これに各機械器具を設置し、最後に外壁(外装パネル)を設置する(但し、屋根や外壁を設置しないものもある。)が、ユニット方式の場合は、各機械器具ごとに各ユニットに収納し、現地で右ユニットの骨組(鉄骨)をボルト(アンカーボルトとナット)で結合して積み重ねる方式であり、このユニットの上下が各階の天井と床に、その側面が外壁となって一棟の建物となっている。

本件建物は、鉄骨造鉄板葺高床式三階建で、三階が受材室、二階が貯蔵槽、計量室及び操作室、架台の上の一階がミキサー室となっており、受材室は一個の、貯蔵槽は六個の、計量室は二個の、操作室は一個の、ミキサー室は二個の、合計一二個のユニットから成り、これらをコンクリートの架台の上に順次結合して築造されたものである。

(3)  本件物件のうち、別紙物件目録二の八のベルトコンベアーは、建物外に設置された支柱に支えられているうえ、本件建物とは、三階受材室の外壁をくりぬいた部分の鉄製の枠にヘッド部分(風雨を防ぐため鉄板で覆いをしている)を突っ込む形で立て掛けられ、また二階上部(三階床部分)の鉄柵にボルトで固定されている。同目録の一ないし五の各計量器は、天井の簗の鉄骨にボルトで固定されたフックで吊り下げられており、また、同目録の六及び七のミキサー及び集塵機は、いずれもミキサー室の床(コンクリートの架台)にボルトで固定されている。

(4)  従って、本件物件を取り外すことは容易であり、本件建物の外壁は遮音、断熱用の外装パネルにすぎないから、必要箇所を一部取り外すなどすれば、これを建物外へ搬出することも可能であり、現に本件集塵機は、その後本件建物からこのような方法で取り外されて新品と取り替えられており、操作室ユニット内の操作盤は、窓から搬出されて別個の建物である事務室内へ移設されている。また、本件物件はいずれも単体として取引の客体となりうるものである。

以上認定の事実によれば、本件物件は、いずれも本件建物の構成部分ということはできず、備附物に該当するというべきである。

もっとも、前記武内証言によると、各ユニット自体に単体としての独立性があり、一個のユニットに欠陥が生じた場合に、そのユニットだけ交換することが可能であることが認められるが、各ユニットが現地で組み立てられ、全体として一棟の建物として評価されるに至った以上、建物の構成部分といいうるか否かの判断においては、当該物件と建物とを分離することが、これらを毀損したり過分の費用を支出することなく可能であるか否か、当該物件が取引上の独立性を有するか否かという物理的経済的観点から社会通念に従って判断すべきものであるから、右認定判断を左右するに足りず、他にこれを左右すべき事情を窺わせる証拠は存しない。

三  原告が三条目録を提出していないことは、当事者間に争いがない。

原告は、法三条の対抗要件の対象となる第三者には、工場抵当権を設定した抵当権者は含まれない旨主張するが、三条目録は法三条二項及び三五条により登記簿の一部とみなされ、したがってその記載は登記とみなされているのであるから、目録を提出していない抵当権者はこれを第三者に対抗することを得ないものというべきであり、法文上も第三者の範囲について何らの制限を設けていないのであるから、右第三者がいわゆる背信的悪意者に当たるような場合は格別、一般に工場抵当権を設定した抵当権者が右第三者の中に含まれないとする論拠は見いだしがたいというべきである。

もっとも、三条目録を対抗要件と解すると、民法上抵当権の効力が従物に及ぶことについては対抗要件を必要としないと解されるから、備附物が工場に属する土地または建物の従物である場合には法によって対抗力が制限される機能を果すことになる。そこで、備附物は従物と同一の理論に従うべきであるとする考え方に立ち、三条目録に記載のない備附物であっても備附という状況において工場抵当権の登記をもって対抗でき、ただ備附物が不法に分離された場合の追及力は目録の記載がなければ対抗力を失うとする見解も有力に唱えられており、原告の右主張も趣旨を同じくするものがあるが、法は、備附物が必ずしも常に従物の範疇に含まれるとはいえず、独立して取引(担保の供与も含む)の対象となる可能性も高いことから、民法上の不動産抵当の範囲(附加物及び従物)を拡張してこれに抵当権の効力を及ぼすことにするとともに、三条目録を対抗要件としてこれを公示することにしたものと考えざるを得ないのであって、備附物に対する工場抵当権相互間の優劣についても、三条目録の提出、記載の有無ないしその順位により決定すべきものであると解するのが相当である。所論は当裁判所の採用するところでない。

四  そうすると、原告の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(別紙)

物件目録一

所在    中津市大字相原字勘助野地二八六五番地三三、二八六五番地三二

家屋番号  二八六五番三三

種類    工場

構造    鉄骨造鉄板葺高床式三階建

床面積   一階 四四・六五平方メートル

二階 三二・九〇平方メートル

三階 一五・三六平方メートル

物件目録二

一 セメント計量器                     一基

二 水計量器                        一基

三 細骨材計量器                      一基

四 粗骨材計量器                      一基

五 混和材計量器                      一基

六 ミキサー                        一基

七 集塵機                         一基

八 ベルトコンベアー                    一式

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